昭和35年~昭和45年までの間に各地域に定着していた家庭料理としてのそば・うどん・粉物のレシピをまとめた「全集伝え継ぐ日本の家庭料理 4 そば・うどん・粉もの」が発売されています。
掲載されている出来上がりの写真は、それぞれの地域の文化ともいえるエピソードが感じられるとともに、家庭的な懐かしさが沸いてきて、読んでいると作ってみたくなる一冊です。
ポイントはこちら。
☑ 昭和35年~昭和45年までに各地域に定着していた家庭料理としてのうどん29品のレシピがまとめられています。
☑ うどん以外にもそばやそうめん、すいとん・だんご汁と、その他の麺・粉物のレシピも掲載されています。
☑ ハードカバーの製本以外に同じ内容の「別冊うかたま」シリーズもあります。
伝え継がれ、そして作って伝え継ぐ。
今でこそ外食産業のありかたが追求され、食べ物の写真がシェアされることを意識して洗練された盛り付けのうどんをみかけるものですが、昔ながらの家庭料理としてのうどんにも、伝え継がれる食文化を感じられる良さがあるように思います。
この「全集伝え継ぐ日本の家庭料理 4 そば・うどん・粉もの」には、そんな昭和35年から昭和45年に地域に定着していた家庭料理としてのうどん29品が、それぞれの地域のエピソードと共に掲載されています。
この本では、さらに各地方の現地を訪ねて聞き取ったレシピが紹介されています。
うどんのレシピについては、手作り感のある手打ちうどんのようなものもあります。
また、きつねうどんのように受け継がれて定番メニューにもなっているものもみられます。
さらには、きしめん、味噌煮込みうどん、伊勢うどん、おっきりこみ、ほうとう、ひもかわ、冷や汁うどんなどといったご当地うどんとして知られるうどんも名を連ねています。
令和の今に出版された、昭和の家庭料理の図鑑のようでもありますね。
ところで、例えば本ブログで触れたことがある1643(寛永20)年刊の「料理物語」では、当時のうどんの作り方が紹介されていますが、挿絵がないためどのような一皿であったかは正確にはわかりませんでした。
つまり"うどん"という言葉は使われていて、レシピを見ると今のうどんと同じようではあるものの、どのように食べられていたうどんなのか確たるところはその1冊ではわからず、うどんの歴史はどうだったのかを確認するために、数多くの他の史料を併せ見ることをしてきました。
そうした面から見てみますと、この「全集伝え継ぐ日本の家庭料理 4 そば・うどん・粉もの」は、昭和35年から昭和45年という第2次世界大戦後の高度成長期に、大きく技術が発展しつつ生活が変化している中で、日本の食文化がどのようなものであったかを写真とレシピの両方を再現記録したものになっており、後世に残る史料としても貴重なものとなっているように思います。
麺作りの表現の違いが面白い。
今日、私たちが食べるうどんの多くは、グミのようともいわれる特徴的な食感を表現するとともに、ゆで伸びに強くする目的で、"時間をかけて作るレシピ"やデンプン類の添加物を加えたレシピによるものとなっています。
一方、この本では生地から作るうどんも紹介されており、もちろん家庭料理ですので生地を作る時間は最低限なものとなっており、しかも聞き取られた家庭ごとに異なっているわけですから、この本はそうした"素朴で新鮮なレシピ"のいくつもが1冊に収められたものになっています。
そんなわけでよくよくレシピを見ていくと、「やはりどこでも1時間くらい寝かせるのだな」「おお!踏んでない!」「100回の足踏みを6セットか!」などと、これは何気に熱くなる一冊なのです!
マニアックな内容も。
この「全集伝え継ぐ日本の家庭料理 4 そば・うどん・粉もの」にはうどんについてのエピソードやレシピが掲載されているのはお伝えしてきたとおりですが、巻末には全体を俯瞰して、うどんの食感やつゆの塩分について書かれたコラムがあります。
中でも特に東日本と西日本のうどんのつゆを比較し、つゆの香りとして1番目に感じられるのがしょうゆなのか出汁なのかの違いがある、といった表現も見られ、そのコラムは時間軸で味を感じることができる方によって書かれていることがわかります。
その上で、出汁をしっかり引けば塩味を強調して感じさせる効果があるので減塩できるだろうと締めくくられています。
ところで、人体の塩分濃度は人体の水分量の0.85%と言われ、この濃度と浸透圧があることを根拠に料理の塩分濃度も0.8~0.9%程度が自然に美味しいとも語られることがあります。
ただ、塩分濃度計でこの塩分濃度を確認しつつ作ってみても、舌に塩辛さを明瞭に感じ、私はすっと飲むことができなと感じています。
そうしたこともあり、そのコラムでさらに減塩してみては、といった提案がなされていることについては、大いにうなづくところでした。
あとですね、家庭用の「小野式製麺機」の取り上げも見られます。
ここにくるかーといった感がありますね!
みなさんはどのようにお感じになりますでしょうか?
聞き書でありながら作れる内容。
こうした伝え継がれている家庭料理のうどんを紹介する書籍としては、農文協編「聞き書 ふるさとの家庭料理 第4巻 そば うどん」もあり、その本はどの地域でどのような食べ物があったかを聞いて書き残されたものとなっています。
今回紹介している「全集伝え継ぐ日本の家庭料理」は、聞き取られた現地のエピソードのほかに、レシピも分量がきっちりと書かれたものとなっており、また作る工程とその写真も掲載されています。
つまり、似ているようで作りは全く異なっていて、作れるレシピ本としてまとめられているのです。
みなさんも、この本でうどんを作って日本を旅してみてはいかがでしょうか?
内容が全く同じ本もある。
ところで、この本はハードカバーに製本されたものとなっていますが、あとがきを読みますと実は「別冊うかたま2020年3月号 全集伝え継ぐ日本の家庭料理」という名の書籍でも出版されていることがわかります。
実際に本を手に取り確認してみたのですが、内容は同じでした。
お値段はハードカバーの「全集伝え継ぐ日本の家庭料理4 そば・うどん・粉もの」が税込み3,080円。
「別冊うかたま2020年3月号 全集伝え継ぐ日本の家庭料理 そば・うどん・粉もの」が税込み1,760円。
製本と価格の違いをみて、お好みの方を選ぶのが良いと思います。